津名高校の同門のみなさまへ

(お伝えしたいこと:本のご紹介を含めて)

   第35回生 日本福祉大学   
青木聖久(あおき きよひさ)

2019年7月12日

 はじめまして。私は、第35期卒業生の青木聖久と申します。現在53歳です。津名高校を卒業後は、現在勤務しております日本福祉大学に進学し、その後、精神保健福祉分野のソーシャルワーカーとして、岡山(慈圭病院)、神戸市西区の精神科病院(関西青少年サナトリューム)に14年強勤務しました。ところが、そのさなかの2001年6月に、大阪池田の児童殺傷事件(小学1・2年生が8人亡くなり、15人が負傷)が起こったのです。
 私はこの事件の直後の36歳の時、精神科病院を退職し、地域の小規模作業所の所長として普及啓発活動に、より本格的に取り組み始め、今日に至っています…。

この事実を世間に伝えたい

 その前提として、皆さんにお伝えしたいことがございます。一部の新聞報道のみを切り取ると、精神障がいのある人を、さも怖い人のように思ってしまうことはないでしょうか。でも、そんなことは決してございません。むしろ、「こんなに純粋で、やさしい人たちが世の中にはいるんだ」。これが、私が初めて「精神障がい者」と言われる人たちと出会った時の印象です。なので、「この事実を世間に伝えたい」と思い、私は20歳代の頃から、普及啓発活動に取り組んでいるのです。

「世間から白い目で見られるわ」

 話を戻します。大阪池田の児童殺傷事件の報道を知った多くの精神障がいのある人と家族は、悲しみました。なかでも、忘れられない言葉が、1人の精神障がいのある40歳代の男性の言葉。「俺らの仲間のなかに、あんなひどいことする人おれへんのやけどなあ。これで、俺らまた世間から白い目で見られるわ。つらいな…」と。

 元々世間の人たちが精神障がいのある人たちに抱いている、差別や偏見の意識が助長されることを、その方は心配しました。それは、私たち支援者も同様だったのです。

先入観と実際

 それから18年の月日が経ち、世間の精神障がいのある人たちへの意識は変わったのでしょうか。感覚的なものですが、少しずつは変わっています。その1つに、マスコミ等で堂々と実際の姿について語る精神障がいのある本人や家族の姿が挙げられます。とはいえ、多くの人は未だに「怖い人では」という先入観を持っていらっしゃるのです。それは、かつての私がそうであったように。私たちは、「精神障がいの有無」というカテゴリーで、他者を判断しがちではないでしょうか。

変に身構えないでほしい

 そして、2019年6月、悲しい事件が、大阪の交番(警察)で起こりました。添付の新聞記事をお読みください。そのことによって、18年前と同様の心配を私たちはしています。とりわけ、「大丈夫だよ。精神障がいのある人は怖くなんてないよ。やさしい人だよ」と思っていた人たちが、この事件を通して、変に身構えないかについて、私たちは恐れているのです。そのことについて、共同通信の記者が取り組み、記事になったのが添付の新聞記事です。高知新聞をはじめ、多くの新聞社がこの記事を掲載してくれています。

中日新聞(2019.6.23朝刊)27面抜粋

「孤立しているか否か」

 30年以上の間、精神保健福祉の世界で支援者として活動を続けている私が思っているのは、「孤立しているか否か」というカテゴリーの方が大きなこと。少なくとも、精神障がいのある人が、さも何かの事件を、ということはございません。「津名高校の出身者か、別の高校の出身者か」。この違いによって、どんな傾向があるかを断定できる、と思っている人はいないはず。このことと同じ事です。精神障がいの有無という属性だけで、カテゴリー群を作ってしまうことを大変危惧しています。

5人に1人は精神疾患を体験

 現在、精神疾患を持ち受診している人が、約420万人と言われています。実に、30人に1人が精神疾患を持っていることになるのです。また、国は2004年に「こころのバリアフリー宣言」を出し、生涯にわたって、5人に1人は精神疾患を体験する、とも言っています。
 ということは、精神障がいがあることは、特別でないことがわかります。そのことよりも、もっと大事なことは、人は誰しも、当たり前に声をかけられると嬉しいし、ほめられるとやさしい気持ちになれる。そして、誰かの役に立つと生きがいを感じると共に「生きている」と実感でき、そのことによって、不思議と他者にもやさしくできるのです…。

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自らの人生の主人公としての家族の暮らし

 加えて、私は3年程前より、精神障がいのある人の家族会の全国組織である「公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会(通称、みんなねっと)」の月刊誌の『月刊みんなねっと』において、「知ることは生きること」というコーナーをいただき、連載をしております。とりわけ、2017年の秋からは、「自らの人生の主人公としての家族の暮らし特集」として、精神障がいのある人の家族を主人公にした記事を書いているのです。それが、一定数の蓄積ができると共に、多くの方々から背中を押してもらったことも相まって、この度「ペンコム」(出版社)よりリライトして、刊行いたしました。

『追体験 霧晴れる時』

 内容は、精神障がいのある人の家族(15名)を人生の主人公として位置付け、直接お話をうかがい、私の感じ方も含めて、掲載しております。全15話です。また、家族を人生の主人公に据え、具体のことにも論及していることから、各々の名前については、仮名にしております。
 そして、刊行する書籍名ですが、『追体験 霧晴れる時』といたしました。一度きりの人生において、一人の人が、直接体験できることは限られています。そのようななか、今もなお、家族という立場であることに葛藤し、いや、どうしていいかもわからず、孤立されている方が少なくありません。そのような方々が、本書を通して、ほんの少しでも、気持ちの霧が薄くなり、いずれ晴れることができればと思っています。

「人っていいな」

 また、本書は一般書として、誰から見ても理解できるように、ふり仮名、用語解説、文中の内容の精査をいたしました。多くの方が、本書を通して、最終的に、精神障がいのある人や、その家族の理解というより、人間理解になればというのが、最終的にたどり着くことのできた考えです。「人っていいな」、「人って、変化し成長する」。こんなことを発信することが、私が本書を出版することの最大の意義だと思っております。

社会貢献活動

 なお、本書は、前述のような普及啓発に加えて、もう一つの意義があります。それは、本書で得られた印税所得については、全額を「公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会」(通称、みんなねっと)に寄付する、ということです。
 また、本書は、インターネットの検索窓に「青木聖久 ペンコム」と入れていただけますと、ペンコムのホームページにつながり、第14話の試し読み(無料)ができます。「7月刊行『追体験 霧晴れる時』著青木聖久第14話、生きづらさを抱え霧の中を漂うすべての方に捧げます」というバナーをクリックすると、本の画像につながります。この画像の左上をクリックすると、本のページがめくられるのです。驚きです。
 これが、私の取り組む社会貢献活動。
              ↓
https://saas.actibookone.com/content/detail?param=eyJjb250ZW50TnVtIjoiMTE3MjMifQ==&detailFlg=0

さいごに

 さいごになりましたが、津名高校の同門のみなさま。
縁あって、5年前の2014年の創立記念日の式典の際、講演の機会を得ました。とはいえ、自身の高校時代を二文字で表現するならば、「挫折」。苦しかったですし、何よりも、自分のことを、その当時の自分は好きではなかった。部活は途中で辞め、帰宅部。勉強も下から数えれば、すぐそこに。
 でも、人生とはわからないものです。いま私は、精神保健福祉分野にいる自分のことを結構気に入っています。そう考えると、色々なことが、これまでの人生においてありましたが、全てが必然のことだったのかもしれません。
 そして今、精神障がいのある本人や家族、支援者、関係者を含め、皆さんと共に、今を生きていることが心地いいのです。また、そのような皆さんと未来を語っている仲間に入れてもらえることが、本当に嬉しくてたまりません。
 なので、人生、何がいいかどうかなんて、終わってみないとわからない。ゆえに、つらいことがあったとしても、早まらず、時の流れに身をまかせたり、「ま、いいか」と開き直ることもありだと思います。
 私は淡路島を離れて35年になりますが、今後とも、同門のみなさんとつながれますことを、心より楽しみにしております。ちなみに淡路島に住んでいる姉や甥、従妹も、津名高校の卒業生です。時節柄、くれぐれもお身体にご自愛ください。今後とも、よろしくお願い申し上げます。

      知多半島の地より、
淡路島、そして津名高校に思いを寄せて